急速に高まる存在感
これまでインターネットやスマートフォンとの付き合い方について何度か書いてきました。特に、ショート動画やSNSなどはその高い中毒性ゆえ、依存症にならないよう注意が必要だと伝えてきました。しかし最近、これらに加えて新しいツールが発展してきているようです。それは「AIコンパニオン」とよばれる存在です。AIコンパニオンとは、スマートフォンやパソコンを使って、AIと会話したり、相談したりできるアプリやサービスのことです。まるで本物の友だちや恋人のように、話を聞いてくれたり、気持ちに寄りそってくれたりするので、人気が出てきました。画面の中に出てくるキャラクターとメッセージを送り合ったり、声で会話したりすることで、まるで人間と話しているような気持ちになると言われています。
アメリカの調査会社の発表によると、AIコンパニオンアプリへの2024年の課金額は世界で5,500万ドル(約81億円)に上り、前年の6.5倍に増えたそうです。また、2024年の総ダウンロード数は1億1800万回で、利用者の65%を18~24歳が占めているとの調査結果もあり、AIコンパニオンアプリが若者たちの間で急速に広まっていることが分かります。
「道具」ではなく「相談相手」
AIというと、「chat GPT」などの生成AIが有名ですが、AIコンパニオンもそのような対話型AIのひとつで、全く別の新しい技術が生まれたという訳ではありません。ただ、用途が今までとは少し異なってきているのです。広告代理店の電通が行った調査によると、対話型AIに求めていることは、「自分が知らないことを教えてほしい」(46.6%)、「アイデアを出してほしい」(42.8%)などが多くを占める中、10代では「心の支えになってほしい」「話し相手になってほしい」などが全体の割合よりも5ポイント以上高く、情緒的な価値を対話型AIに求めている人が多いことが分かったそうです。若い世代では、感情を共有できる相手として「対話型AI」と回答した人は64.9%と最多で、「親友」と答えた人の64.6%、「母」の62.7%より高くなっていたというから驚きです。
適度なストレスは必要である
こういった「話し相手」としてのAIの利用は、今後ますます増えていくことでしょう。利用者の多くは、「生身の人間との会話では気を遣わないといけないし、嫌なことを言われたり喧嘩になったりすることもある。その点、AIは文句ひとつ言わずに自分の言葉を聞いてくれるから安心だ」と言います。確かに、AI相手の会話はストレスもなく気楽であると思います。また、他人に知られたくないような内容を相談する相手としては便利なこともあるでしょう。ただ、ずっとAIばかりに話すようになると、現実の友だちや家族との会話が減ってしまい、人とどう関わればいいのか分からなくなってしまうかもしれません。
そもそも、普通の人間との会話やコミュニケーションには、単に要件を果たすという作用以外に、もっと大切な役割があるのではないかと思うのです。それは、他人と接することで、相手に対する気遣いや表情を読み取る力、不愉快なことに対する忍耐力などの能力が育てられるということです。 そう考えると、ある程度成熟した大人が1つの道具としてAIを利用するのならいいのですが、発達段階にある子どもたちが「ストレスのない」話し相手に依存してしまうことには不安を感じます。親身になってきついことを言ってくれる身近な人間より、耳触りのよい会話を提供してくれるAIの方に信頼を寄せるという姿勢には、何だか寂しさを感じます。アメリカでは「AIチャットボット」という会話アプリに相談した若者たちが、AIから自殺を肯定され、方法まで紹介された結果、実際に自殺してしまう事件まで起きているそうですが、今後こういったことが日本で起こってもおかしくないのではないでしょうか。
今後の社会ではAIはますます活用されていくと思います。便利な面だけを見て無警戒に利用するのではなく、AIの特性や子どもたちへの影響をよく見て、冷静に付き合っていかなければならないでしょう。